類は友を呼ぶ、という。似た者同士は自然と寄り集まる。それを裏返せば、友達をよく見れば、その人の性格や考え方も分かる、ということだ。

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週刊新潮が10月15日号で、菅義偉首相の友達特集を載せていた。最初に、共同通信の論説副委員長から首相補佐官に転じた柿崎明二(めいじ)氏が登場する。そして、この柿崎氏と菅首相をつないだ人物として、政治系シンクタンク「大樹(たいじゅ)グループ」の矢島義也氏(59歳)を取り上げていた。「令和の政商」なのだという。

謎多き人物だ。週刊新潮は「長野県出身」と報じたが、「静岡県浜松市生まれ」とするメディアもあり、はっきりしない。高校を卒業した後、実業界に身を投じ、のし上がっていった人物のようだ。「矢島義成」と名乗っていた時期もある。

「政商」としての矢島氏の力を示したのは、2016年5月に開かれた彼の「結婚を祝う会」だった。週刊新潮によれば、主賓は当時官房長官だった菅義偉氏。二階俊博・自民党政務会長(当時)が乾杯の音頭を取り、安倍晋三首相もビデオメッセージを寄せた。

現職閣僚の林幹雄、遠藤利明、加藤勝信の各氏も出席し、さらに野党からも野田佳彦・元首相や安住淳、細野豪志、山尾志桜里の各氏が顔をそろえた。福田淳一・財務事務次官や黒川弘務・法務省官房長ら、後にセクハラや定年延長問題で世を騒がせた高官も並んだ。永田町や霞が関の事情通をうならせる顔ぶれだった。

では、これだけの人々を呼ぶことができる矢島氏とは、いかなる人物なのか。彼が率いる「大樹グループ」の公式サイトには、持ち株会社の大樹ホールディングスや大樹総研、大樹コンサルティング、大樹リスクマネジメントといったグループ企業と社長名が列記してある。所在地はすべて「中央区銀座7丁目2-22」だ。

業務内容は「戦略コンサルティング」「フェロー派遣サービス」「地方自治体向けサービス」「政策研究・提言」と記してあるが、サイトはわずか2ページしかない。説明文を読んでも、具体的なイメージがまるで湧いてこない。

その内実を探るべく、資料をあさっているうちに、月刊誌『選択』の2018年8月号と9月号にたどり着いた。

それによれば、このグループは政界と官界に人脈を張り巡らし、「口利き商売と補助金ビジネスを売り物にしている」のだという。「補助金という名の血税を巧みに吸い込み、濾過するビジネス」を得意とするグループだ、と断じている。

例えば、グループのエネルギー開発会社「JCサービス」は2013年に鹿児島県で太陽光発電の蓄電池を活用するモデル事業を計画し、環境省から補助金を得た。だが、ろくに事業も進めず、2018年に補助金2億9600万円の返還と加算金1億3600万円の支払いを命じられた。

別のグループ企業「グリーンインフラレンディング」は、再生可能エネルギー事業を進めると称して投資家から巨額の資金を集めたものの、資金の一部が不正に流用されたとして、資金の募集停止に追い込まれている。

『選択』によれば、このグループの謎を解くキーワードは「浜松」「松下政経塾」「自然エネルギー」の三つだという。矢島氏は、浜松を拠点とする熊谷弘・元官房長官(羽田内閣)や鈴木康友・浜松市長と昵懇の間柄にあり、これを足場に政界と官界の人脈を広げていった。

鈴木康友氏は松下政経塾の1期生であり、同じ1期生の野田佳彦・元首相を矢島氏につないだ。その人脈は民主党政権時代に細野豪志、安住淳の各氏や官界へと広がっていく。同時に、野党の代議士として不遇をかこっていた菅義偉氏や二階俊博氏との知遇も得た。

このグループのしたたかさは、民主党政権から自民党・安倍政権になってからも、「再生可能エネルギー関連のビジネス」をテコとして、さらに政官財とのパイプを太くしていった点だ。いわば、「自民党の不得意分野」で活路を切り開いていったのである。

見過ごしにできないのは、その手法だ。週刊新潮は、写真誌『FOCUS』の1999年7月21日号を引用して、矢島氏が<乱交パーティー「女衒芸能プロ社長」の正体>と報じられた過去があることを紹介している。東京のマンションの一室で週に1回ほど乱交パーティーを開き、有名な俳優や人気アイドルを集めていたのだという。

「金と色」で人脈を広げ、その人脈を使って影響力をさらに強めていく。「再生可能エネルギー」という衣をまとっているところが「平成流」と言うべきか。時の首相の友人として、いかがなものかと思う。

週刊新潮は11月5日号で、「菅首相のタニマチが公有地の払い下げを受け、ぼろ儲けした」と続報を放った。こちらは別の人物が主役で、地元の神奈川県を舞台にした疑惑である。安倍政権の「森友学園問題」より、はるかに露骨な利益誘導ぶりを伝えている。

地縁血縁のない横浜で政治家を志し、有力なスポンサーも見つけられない中で権力の中枢へと駆け上がっていっただけに、菅首相の周りには有象無象がうごめいている。何が起きているのか。メディアは臆することなく、その闇に分け入っていかなければならない。

*メールマガジン「風切通信 81」 2020年11月7日

≪写真説明≫
◎大樹グループの総帥、矢島義也氏