*メールマガジン「風切通信 50」 2018年12月2日

 権力は水に似ている。澄んだ水も同じところにとどまれば、やがて濁っていくように、権力もまた、同じ人間が握り続ければ、いつしか澱(よど)んでいく。それは、洋の東西を問わず、時代を経ても変わらない。

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 月刊誌『素晴らしい山形』は2年前の秋から、吉村美栄子・山形県知事の義理のいとこ、吉村和文氏が率いる企業グループがらみの様々な問題を報じてきた。それらの問題の多くには、何らかの形で吉村知事の存在が影を落としている。吉村県政の誕生から間もなく10年。私たちが暮らす山形でも、権力の周りに「澱み」が生じ始めている、と見るべきだろう。

 いったい、何が起きているのか。地域おこしの小さなNPOを主宰する者として、また一人の納税者として、このまま見過ごすわけにはいかない。山形県の情報公開制度を利用して公文書を入手し、関係者に教えを請いながら独自に調査を進めてきた。その結果を中間報告の形でお伝えしたい。

 まず、吉村和文氏が代表取締役社長を務めるケーブルテレビ山形(2016年にダイバーシティメディアに社名変更)のパソコン入札問題から取り上げる。山形県庁で職員が使うパソコンは数万台に上り、県は古いものから順次、廃棄処分にして、入札にかけて新製品を調達する。一覧表(表1)は、吉村美栄子氏が知事に就任した2009年以降の入札結果である。

 県の入札公告や入札調書によると、この9年間に12回の入札があり、そのうちの6回はケーブルテレビ山形が落札に成功した。入札価格ベースで見ると、総額5億154万円(千円以下切り捨て)のうち、2億2748万円(同)と半分近くを受注している。物品購入契約の際には、これに消費税を加えた金額が県から支払われる。ケーブルテレビ山形が落札、納入したパソコンはすべてNEC製である。残りは東芝製品を扱う管理システム(本社・酒田市)と富士通製品を扱うリコージャパン(本社・東京都港区)、NEC製品を扱うメコム(本社・山形市)が落札した。

 パソコン機器の販売・流通事情を知る人間ならば、この落札結果を見て「ケーブルテレビ会社がなぜ、次々に落札に成功するのか」と疑問を抱く。『素晴らしい山形』でも報じられたように、この会社の主な業務はケーブルテレビ網の整備と顧客へのテレビ放送の提供である。会社の法人登記を見ても、事業目的の欄に「パソコン機器の販売」に関わる記述はまったくない。吉村県政が誕生する前、2008年度のパソコン調達に関する文書にも、ケーブルテレビ山形は登場しない。

 「この会社はそもそも、入札参加資格を満たしていたのか」との疑問を抱き、県に対してそれ以前の入札調書の公開を求めた。県の財務規則によれば、入札に参加するためには「1年以上前からパソコンの販売をしている」という実績が必要になるからだが、「2007年度以前の入札調書は文書の保存期限が過ぎており、存在しない」との理由で、入手できなかった。

 やむなく、ダイバーシティメディアに文書で問い合わせたところ、「平成14年(2002年)以降、山形県に対して販売実績はあります」との返答があった。入札参加資格に関しては別途、公文書でも問題がないことを確認した。しかし、それにしてもなぜ、吉村美栄子氏が知事になった途端、パソコン販売を得意とする企業を打ち破ってこの会社が次々に落札することができたのか。疑問は消えない。

 その疑問は、ケーブルテレビ山形の生い立ちを知れば、いっそう募る。この会社は、ケーブルテレビ網を全国に広げることを目指して総務省が推進した「電気通信格差是正事業」の補助金受け皿会社として1992年に設立された。吉村和文氏はメディアのインタビューに「50社から200万円ずつ出資を得て資本金1億円を集め、起業した」と語り、普通の民間企業のように述べているが、これは誤った印象を与える発言である。

 この事業の「補助金交付要綱」には、「都道府県、市町村又は第三セクター等」に対して補助金を出す、と明記されており、最初から地方自治体の出資も前提にした「第三セクター」を事業の対象にしていたからである。実際、起業後にケーブルテレビ山形が増資した際、山形県は1997年に360万円、2001年に840万円、計1200万円の出資をした。県は、各社の当初の出資額200万円の6倍の資金を投入しているのである。

 山形県が出資して第三セクターとしての体裁が整うと、ケーブルテレビ山形に巨額の補助金が流れ込み始める。事業費の半分は会社が用意し、残りの半分を国と県、市町(山形市と天童市など)が補助金として交付する仕組みだ。国から4分の1、県と市町からそれぞれ8分の1が交付される。1998年度から2003年度までに交付された補助金の内訳は表2の通りで、この期間だけで総額2億2239万円に上る。

 巨費が投入され、山形市や天童市などにケーブルテレビ網が敷設されてサービスは徐々に広がっていった。当初はケーブルテレビの業績も順調だった。だが、衛星テレビの内容が充実し、家庭用のパソコンやスマートフォンが普及するにつれて、ケーブルテレビの普及は先細りになっていく。経営の先行きを危ぶんで、ケーブルテレビ山形は事業の多角化に乗り出し、その一環としてパソコン機器の販売を始めたと見られる。慣れない分野で苦労したはずである。なのに、2009年以降のこの躍進ぶり。なぜなのか。システム構築などソフトウェア分野の入札にも視線を向けて、その背景をさらに探りたい。

 吉村美栄子氏は知事に就任した2009年に条例に基づいて、個人資産を公開した。その中に「保有株式」に関する項目があった。その内訳は表3の通りである。なんと、ケーブルテレビ山形の株主だった。知事は記者会見で 「ほとんど亡き夫が残してくれたもの」と語ったが、さすがに「好ましくない」と考えたのか、この株はほどなく手放している。

 吉村美栄子氏が46歳の時、夫は病で没した。弁護士だった夫の和彦氏と吉村和文氏は父親同士が兄弟という間柄だ。和彦氏の父は元県出納長、和文氏の父は元山形市長で、山形では著名な一族である。夫が亡くなった後も親戚付き合いは続く。和文氏のブログ「約束の地へ」には、知事と和文氏が居間で談笑する写真がアップされている(2016年1月10日付、撮影は2015年夏)。

 義理のいとこ同士なのだから、仲良く付き合うのは自然なことである。問題は、片方が県知事という立場にあり、もう一方の和文氏が「補助金の受け皿会社」を足場にして次々に新しい会社を立ち上げ、県や山形市から多額の補助金や助成金を受け取り続けていることにある。そこに情実が入り込む余地はないのか。厳しく問われなければならない。

 吉村和文氏が代表取締役社長や理事長として率いる企業や法人は、表4のように確認できただけで六つもある。これらの企業と法人に共通しているのは、いずれも公金が注ぎ込まれている点だ。吉村ファミリーの企業や法人(この表にない社会福祉法人や公益社団法人を含む)で「国や自治体との接点があまりない」と言えるものは、今のところ見当たらない。

 では、ほかの企業や法人はどのような問題を抱えているのか。次回以降、ケーブルテレビ山形にまつわる問題に加えて、そうした疑問にも触れていきたい。



≪写真説明とSource≫
吉村美栄子・山形県知事
http://tohoku-genki.com/1339

*このコラムは、山形の月刊誌『素晴らしい山形』の2018年12月号に寄稿した文を若干手直しして転載したものです。