*メールマガジン「おおや通信 92」 2012年10月26日


 大谷小学校の5年生は毎年、地域の方から「現役の田んぼ」をお借りして米作りの勉強をしている。泥にまみれて田植えをし、実った稲穂を秋に刈り取る。

 収穫した稲は天日干しして脱穀するのだが、この作業にも力を入れる。指南役の小野昇一郎さんが千歯こきと足踏み式の脱穀機、それにハーベスター(自走型脱穀機)を用意してくれるのだ。大きな櫛(くし)のような千歯こきは江戸時代、足踏み式は明治から戦後にかけて、ハーベスターは最近まで脱穀の主役だった。農機具の改良と進歩の歴史を体験しながら学ぶことができる。

学びの庭7千歯こき(遠藤秀彦)修正.JPG

 「千歯こきでの脱穀は、とても力のいる仕事でした。昔の人は大変な仕事をたくさんしていたんだなぁと感じました」

 生徒はそんな感想文を書いた。いつも食べているご飯に、これまでどれほど多くの人々の汗が注がれてきたことか。かすかにではあっても、感じ取ることができたのではないだろうか。本を読んだり、話を聞いたりしただけでは得られない、農村の小学校ならではの「生きた授業」の成果である。

 この授業には「続編」もある。脱穀した後の稲藁(いなわら)を使って縄をない、みんなで正月用の注連(しめ)飾りを作るのだ。自分の分だけでなく、お世話になった方々の分も作ってプレゼントする。

 稲藁は長い間、縄や俵など農民の生活に欠かせないものの材料として使われてきた。けれども、現代の収穫作業の主役、コンバインは刈り取りから脱穀まで一気にこなし、稲藁は裁断して田んぼにまいてしまう。稲藁にしてみれば、さぞかし寂しいことだろう。

 わずかな量ではあっても、注連飾りとしてお正月の玄関を彩ることができれば、稲藁も少しは救われるのではないか。そんな思いを込めて、今年も注連飾りの縄をなうことにしよう。

 *10月26日付の朝日新聞山形県版のコラム「学びの庭から」(7)
  見出しと改行、写真(遠藤秀彦さん撮影)は紙面とは異なります。