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August 2016 の投稿一覧です。
*メールマガジン「風切通信 11」 2016年8月25日

 マーケティングとは、顧客が本当に求めている商品やサービスを的確につかみ、それを効果的に提供すること。それに沿って考えれば、昨今、日本ではやりの「おもてなしの心」だけでは外国人観光客を呼び込むのは難しい。では、何が必要なのか。人は旅に出て、何に心を揺さぶられるのか。それをすくい取る知恵が求められている――。

 そんなことを思ったのは、日本を拠点に中国情報を発信しているジャーナリストの莫邦富(モー・バンフ)さんの話を聞いたからです。伊豆半島でのセミナーに一緒に参加した後、帰りのバスの中で、莫さんからこんな話を聞きました。

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「山梨県の観光アドバイザーとして甲府を訪ねたら、どこへ行っても武田信玄と風林火山の話ばかり。日本人にとっては馴染み深い人物と旗印なのでしょうが、中国人の観光客には興味が湧かない。それよりは、山梨側から見る『湖に映える富士山』の方がずっといい。静岡側からの見慣れた富士の姿とも違って、魅力的です。東京から近いことも利点。そこから『週末は山梨にいます』という新しいキャッチフレーズが生まれ、訪れる外国人観光客が大幅に増えたのです」

「高知県に招かれたら、今度はどこへ行っても坂本龍馬。桂浜に行けば、龍馬の銅像。はりまや橋でも龍馬・・・。でも、中国人はそもそも知らないんです、坂本龍馬という人物を。知らない人を何度も紹介されてもつらい。それより、桂浜から眺める雄大な太平洋こそ、中国の人に見せたい。中国大陸には、美しい砂浜の先に大海原が広がるこうした風景はほとんどないんです」

「高知県には『日本最後の清流』と言われる四万十(しまんと)川があります。この川も中国人観光客には興味が湧かない。黄土色した中国の大河に比べれば、日本の川はどこへ行ってもきれいで、あちこちに清流があります。わざわざ高知に行くまでもありません。それよりも、四万十川で獲れる『ツガニ』の方がずっと嬉しい。これは上海ガニの仲間。しかも天然です。日本の秘境で天然の上海ガニを食べる―――これなら、中国から観光客を呼ぶことができます」

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「足摺岬もいい観光スポットです。ただし、高知市からバスで3時間もかかって退屈する。『途中に立ち寄るところはないの』と聞いたら、四万十町に廃校を活用したフィギュアの博物館があるという。行ってみたら、山奥にすごい博物館があって、日本人観光客もわんさと押し寄せている。なんだ、あるじゃないの、とびっくりしました」

 この博物館は、模型や食品玩具の専門メーカー「海洋堂」(本社・大阪府門真市)が2011年にオープンさせた「海洋堂ホビー館四万十」です。フィギュアファンのみならず、模型好きにとっては「聖地」のような存在なのだとか。海洋堂の創業者が高知県出身という縁もあって建設されたようです。莫邦富さんは「中国でも農村の過疎は深刻な問題の一つです。そういうことに関心のある人にとっても、この博物館は興味深く、人気を集めるはず」と言います。

 中国からは毎年、かなりの数の観光客が来日しており、リピーターは「あまり知られていない日本」を知りたがっているようです。キーワードの一つは「秘境」。ただし、四万十川の例に見るように、日本人とは異なる視点が必要です。清流は魅力にならない。「ツガニ(上海ガニ)」や「ホビー館」のようなものが欲しい。いくつか組み合わせて、麻雀で言えば、役を二つも三つも付け加えるような工夫が必要です、と莫さんは言います。

 「秘境」ということなら、わが故郷の山形は断然、有利です。莫さんもすでに何度か来たことがあるそうで、「掘り起こせば、中国人観光客を惹きつけられそうな観光スポットがいくつも見つかりそうですね」と乗り気でした。ところが、私が「蔵王の樹氷なんかどうでしょう?」と水を向けると、莫さんは言下に「あれは駄目です」とのご託宣。「つらい体験を思い出すから」と言うのです。

 莫さんは、私と同じ1953年の生まれ。上海生まれの都会っ子です。この世代は文化大革命の真っただ中で青春を迎え、その嵐に翻弄された人たちです。文革中、都市部の若者を農村に送り込む、いわゆる「下放(かほう)運動」が大々的に展開されました。労農の団結という革命思想を叩き込むため、とされました。莫さんは中国東北部の黒竜江省の農村で若き日々を送ったのです。

 「あの厳しい寒さは忘れられない。氷点下の蔵王に樹氷を見に行く気には、とてもなれません」と、莫さんは言うのです。なるほど、外国から観光客を誘致するためには、そういう歴史にも目配りしなければならないのか。マーケティングと一口に言うけれど、やはりどの世界も奥が深く、難しい。



≪参考サイト≫
◎土佐のツガニについて(「旬どき・うまいもの自慢会・土佐」のサイト)
http://tosa-no-umaimono.cocolog-nifty.com/blog/2006/10/post_57c9.html
◎四万十町のフィギュア博物館「海洋堂ホビー館四万十」
http://buzzap.jp/news/20150301-kaiyodo-hobby-kan-shimanto/
◎莫邦富さんの公式サイト
http://www.mo-office.jp/

≪写真説明とSource≫
◎四万十川でのシラスウナギ漁(「ファインド トラベル」のサイト)
http://find-travel.jp/article/38544
◎土佐のツガニ(札幌を刺激するウェブマガジン「sappoko」から)
http://sappoko.com/archives/18899





*メールマガジン「風切通信 10」 2016年8月14日

 最上川をカヌーで下る地域おこしを始めた時から、「いつか最上川の源流を訪ねてみたい」と思っていました。なかなか機会がなかったのですが、最上川の源流部に「秘湯中の秘湯」があると知り、思い切って車で行ってきました。福島県境に近い米沢市の大平(おおだいら)温泉というところです。

 この大平温泉には、宿は1軒しかありません。米沢の市街地を抜け、車で山道をたどって40分ほど。尾根に駐車場があり、そこに車を停めて、あとは徒歩で渓流に下りていきます。急な坂道を20分ほど歩くと吊り橋があり、その先に目指す「滝見屋」がありました。玄関先に掲げられた由緒書には「貞観2年(西暦860年)、清和天皇の御宇(ぎょう)に修行僧によって発見された」と記してありました。江戸時代には湯治客用の宿があったといいますから、とても古い温泉宿です。


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 雪深いところです。11月上旬から4月下旬までは雪に埋もれるので、営業できません。宿のスタッフの今井正良さんによると、4月の初めから再開の準備を始めるのですが、その時期でも積雪が2メートルほどあるそうです。雪の重みで吊り橋が壊れてしまう恐れがあるので、晩秋に吊り橋の床板を外しておくのだとか。厳冬期の積雪は5メートルを超えるでしょう。

 その吊り橋を覆うようにモミジの枝が伸びていました。なんと、8月の上旬というのに、その一部が早くも朱に染まっていました。8月の紅葉を見たのは生まれて初めてです。「日本で一番紅葉が早い」とされる北海道大雪山の温泉宿でも、色づき始めるのは9月上旬ですから、最初はわが目を疑いました。宿の標高は1000メートルほど。渓流を流れる冷たい水が木々の冬支度を早めているのかもしれません。

 宿には電線も電話線も来ていません。自家発電で明かりをとり、衛星電話で外部とつながっています。谷底なのでテレビの電波も届きません。宿の案内書には「快適さを求めるお客様にはほかの宿をお勧めしています」とあり、奥ゆかしい。滝と渓流を眺めながら湯量豊かな露天風呂につかり、ボーッとするには最適の宿です。だだし、渓流が大きな音を立てて流れていますので、寝つきの悪い人には不向きでしょう。

 「よくぞ、この宿を維持してきたものだ」というのが率直な感想です。女将の安部綾子さんにお聞きすると、やはり並大抵の苦労ではありません。秘湯と呼ばれる宿でも、たいていは玄関先まで車を付けることができるので、業者に注文すれば、食材も酒類も車で届けてくれるのですが、この宿は自力で買い出しをして運ぶしかありません。予約も米沢市内の本宅の電話で受け、宿には衛星電話か無線で伝えています。東日本大震災と原発事故の後は、「福島を通って行かなければならないので」と敬遠され、予約は半減したそうです。

 それでも続けてこられたのは、代々営んできた宿を大切にしたいという思いと、「支えてくださる方がたくさんいらっしゃるから」と、綾子女将は言います。地元の人たちがスタッフとして支え、常連客は「客が少なくて困ったら電話して。いつでも行くから」と言ってくれる。言うだけでなく、本当にやって来る。大平温泉は本当の秘湯です。本物には、やはり人を惹きつけてやまないものがあるのでしょう。

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 山道に薄紫色の花が咲いていました。宿の料理を作っている佐藤きよ子さんに尋ねると、「フジバカマ(藤袴)ですよ」と教えてくれました。源氏物語に登場する藤袴がこういう花だと、初めて知りました。山菜料理の腕を磨きながら、きよ子さんは山野草のことも学び続けているのです。訪ねた人の心が安らぎ、和らぐ、すがすがしい宿でした。

≪参考サイトと文献≫
◎大平温泉・滝見屋のサイト
http://takimiya.blogdehp.ne.jp/
◎「日本秘湯(ひとう)を守る会」のサイト
http://www.hitou.or.jp/
◎ガイドブック『日本の秘湯』(日本秘湯を守る会編)

≪写真説明とSource≫
◎吊り橋を覆うモミジの紅葉(8月9日、長岡昇撮影)
◎大平温泉の山道に咲いていたフジバカマ(同)




*メールマガジン「風切通信 9」 2016年8月11日

 リオ五輪のカヌースラローム競技で、羽根田卓也選手が銅メダルを獲得しました。日本人がカヌー競技でメダルを獲得するのは初めてです。カヌー選手だった父の指導で小学3年生からカヌーを始め、高校時代には早朝から自転車で川に通って練習、放課後にまた川に戻って夜遅くまで漕いだのだそうです。国内にいては世界で戦えないと、10年前にカヌー強豪国のスロバキアに渡って練習を続けたと報じられています。長い精進が実っての快挙です。

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 昨日(10日)、羽根田選手のメダル獲得のニュースに接して、「立派な成績だけれど、これで『だから日本にもカヌーの人工コースが必要なのだ』という記事が出るな」と思いました。今朝、朝日新聞を開くと、案の定、社会面に「主要な国際大会のほとんどが人工コースで行われるが、日本には本格的な人工コースがない」「東京五輪では、東京都江戸川区の臨海部に日本初の本格的な人工コースとなるスラローム会場が新設される」という関連記事が載っていました。記事は「メダルも大きな追い風になる」とのカヌー協会関係者の言葉で締めくくってありました。

 はあー、とため息が出ました。東京五輪組織委員会の面々はニンマリしていることでしょう。これで、金にあかせて東京に人工の急流コースを造る計画に弾みがつく、と。朝日新聞は読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞と4社で計60億円を払って、東京五輪のオフィシャルパートナーになりました。1社15億円ものお金を出してくれて、おまけに「公共事業の大盤振る舞い」のような競技場建設計画の後押しまでしてくれるのですから、笑いが止まらないでしょう。

 オリンピックを資金面で支援するオフィシャルパートナーは「1業種1スポンサー」が原則です。なのに、そうした原則などどこ吹く風。日頃の談合批判もどこへやら。オリンピックについては、4社仲良く手を組んで「御用新聞」になることに決めたのです。このことについて、日刊ゲンダイ(電子版)は1月29日に「大手新聞が公式スポンサーの異常」という記事を掲載し、「知らなければいけない不都合な情報や問題が隠され、報道されないという事態」になりかねない、と批判しました。

 朝日、読売、毎日、日経の4紙がスポーツ新聞に「きちんと監視役を果たせ」と説教される日が来ようとは・・・。東京に人工のカヌースラローム競技場を造ることの問題点を指摘するどころか、それを造らなければ世界の強豪と渡り合えない、と煽り立てる記事。こういうのを典型的な「提灯(ちょうちん)記事」と言うのでしょう。記事を書いた記者が善意で、純粋にスポーツの観点から書いているだけに、なおさら影響は大きく、罪も深いのです。

 日本の経済が上向きで資金が潤沢な時期なら、話は別です。が、いまや経済はずっと右肩下がり。医療や介護に回さなければならない予算は膨らむばかり。政府も自治体も借金まみれです。そういう時代に「金にあかせた五輪」など許されるはずがありません。できる限りコンパクトに、ただし、温かい心でもてなす五輪をめざす、という道もあるはずです。東京一極集中の是正も、今の日本の大きな課題の一つです。東京への人工カヌー競技場建設はその流れにも反します。

 こういう主張をすると、「それはカヌー競技を知らない者の戯言だ」と反論されるでしょう。世界大会やオリンピックのほとんどで、カヌースラローム競技は人工のコースで行われるのだ、人工コースがなければ選手の強化もできない、と。純粋にスポーツのことだけを考えるなら、それも一理あるのかもしれません。ですが、オリンピックはスポーツ大会であると同時に、「これからの世界はどうあるべきか」ということに思いを巡らせ、メッセージを発する祭典でもあるのです。

 急流がないなら人間が造ればいい。水が必要なら巨大な揚水ポンプで揚げればいい。それが欧米的な考え方で、スポーツの世界でも支配的なのかもしれません。けれども、日本がそれに同調する必要はどこにもありません。自然の中で、自然が許す範囲で生きていく。それこそ、日本やアジアの国々が育んできた考え方であり、生き方ではないのか。川がつくり出す自然の流れの中でカヌーの技を競えばいいではないか。ごく最近まで、ずっとそうしてきたのですから。

 百歩譲って、8月は渇水期で日本のどこにも適当な水量の渓流がないとするなら、人工のカヌースラローム競技場は東京以外に造るべきです。「すべて東京に」という考えにこだわった結果が今の東京一極集中と地方の疲弊をもたらしたのですから。2020年東京五輪の公式種目に追加されたサーフィンも東京以外で開催される予定です。狭い東京ですべてをまかなう必要など、どこにもないのです。

 朝日新聞が社会面で無邪気な提灯記事を書いているのに対して、読売新聞や毎日新聞が羽根田選手の歩みを中心に人間ドラマとしての報道に徹していたのも印象的でした。目を通した範囲では、「カヌースラロームの人工コース」に触れた記事を書いているのは共同通信くらいでした(日経新聞と山形新聞が掲載)。東京五輪をどういうオリンピックにしたいのか。どういう理念で4年に一度の祭典を照らしたいのか。リオ五輪の熱狂から覚めたら、そうした視点で東京五輪の計画と準備状況の問題点をえぐり出し、より良き祭典につながるような報道に接したい。


≪参考サイト≫
◎「4紙で60億円負担 大手新聞が東京五輪公式スポンサーの異常」(日刊ゲンダイ電子版)
http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/sports/174215
◎カヌースラローム競技場とスプリントカヌー競技場の整備計画(カヌーカヤックネットマガジンのサイトから)。この記事によれば、スプリントカヌー競技場の整備費は491億円、カヌースラローム競技場の整備費は73億円。
http://www.fochmag.com/kayak/index.php?itemid=1272

≪参考記事≫
◎8月11日付の朝日新聞、読売新聞、毎日新聞、日本経済新聞、産経新聞、山形新聞、河北新報(いずれも山形県で配達された版)

≪写真説明とSource≫
◎リオ五輪のカヌースラローム(男子カナディアンシングル)で銅メダルを獲得した羽根田卓也選手
http://www2.myjcom.jp/special/rio/news/story/0022021276.shtml




*メールマガジン「風切通信 8」 2016年8月6日

 郷里の山形に戻って間もなく、2010年に地元の人たちと地域おこしのNPOを立ち上げ、毎年7月の下旬に最上川をカヌーで下るイベントを開いています。日本三大急流の一つとされる最上川は変化に富み、カヌーを愛する人たちの間でとても人気があります。この夏も県内外から31人が集い、急流下りを楽しみました。

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最上川の急流を下るカヌーイストたち(山形県朝日町)

 このイベントに参加した首都圏在住の人たちから、都市伝説ならぬ都市怪談のような話を聞きました。2020年に開かれる東京オリンピックのために、東京の江戸川区にカヌーのスラロームコースを造る計画があるというのです。カヌーのスラローム競技は、300メートルほどの激流に旗門を設けてカヌーで下り、タイムを競うものです。スキーの回転のカヌー版のような競技です。仰天して調べてみたら、本当の話でした。

 東京都オリンピック・パラリンピック準備局のホームページに計画の概要が掲載されています。それによると、東京都立葛西臨海公園の隣にある都有地に水路を造り、国内で初めての人工的なカヌーのスラロームコースを整備する、となっています。上流に巨大な貯水池を建造し、大量の水を流して急流を造り、そこをカヌーで下る。流れ落ちた水は揚水ポンプでまた貯水池に戻す、という計画です。要するに、税金で東京に渓流を造ってカヌー競技を開催する、というわけです。

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福島県二本松市で開かれたカヌースラローム競技会(2013年5月)

 あきれました。東京オリンピックの開催を推進する人たちがどういう思考の持ち主かを象徴的に示しています。カヌーに限らず、ヨットやサーフィンは自然の中で行う競技です。実際、カヌーのスラローム競技は富山県の井田川や岐阜県の揖斐(いび)川、福島県の阿武隈川などで開かれています。ただし、水量が豊富でなければなりませんから、大会は雪解け水が流れる春先か秋雨の集まる時期に開かれるのが普通です。

 しかし、東京の中心部にはそうした川はありません。東京近郊の川を活用することも考えられますが、2020年東京五輪は7月下旬から8月上旬にかけての開催ですから、渇水期でカヌー競技はとても無理です。そこで「人工的に造ってしまえ」となったのでしょう。いったい、いくらかかるのか。組織委員会も東京都も試算を示していませんが、建設費は数十億円あるいは数百億円の規模になると見込まれます。

 建設だけでなく、維持管理も大変です。建設系シンクタンクを経営する橋爪慶介氏の試算によれば、カヌースラロームの競技をするとなると、少なくとも毎秒13トンの水量が必要で、その水を貯水池に揚水するための電気代だけで、年に60日動かすとして1億1300万円もかかります。これに施設維持のための人件費や管理費が加わります。橋爪氏が「恒久的な施設を造るべきではない。自然の中で開催すべきだ」と見直しを提言したのは当然でしょう。

 ですが、この提言に従えば、上記のような川の水量の問題があり、夏に自然の川でカヌースラローム競技を開催するのは困難になります。議論は、そもそも東京で夏にオリンピックを開催することには無理がある、という振り出しに戻ってしまうのです。熱中症が多発するような時期になぜ開くのか、と。では、開催時期を変更することは可能か。東京五輪の夏季開催を決めたのは、巨額の放映権料を支払う世界の(具体的には主にアメリカの)テレビ局の意向を踏まえたもの、とされています。とすれば、開催時期の変更は困難です。時期を変えれば、テレビ各社に莫大な違約金を払わなければならないからです。

 思えば、1964年の東京五輪の開催を担った人たちは、とてもまともな人たちでした。東京でスポーツ大会を開くなら、気候が良くて晴れも多い10月と素直に考え、粛々と準備を進めました。それが人々の記憶に残る見事な五輪大会となって結実したのです。それに引き換え、2020年東京五輪を担う人たちには、なんと胡散臭い人が多いことか。

 新国立競技場の建設計画をめぐるドタバタ劇。五輪エンブレムのデザイン盗用疑惑。いずれも誰かがきちんと責任を取らなければならないのに、みんなで逃げ回り、東京五輪組織委員会の会長、森喜朗・元首相(79)はどこ吹く風といった顔。「せこい」という日本語を世界に広めた舛添要一氏は都知事の座を追われましたが、森元首相の取り巻きとお友達はいまだに、組織委員会でとぐろを巻いています。

 その腐敗と腐臭のすさまじさをえぐり出して見せたのが週刊文春の特集記事です。8月4日号と8月11日・18日号には、森元首相と昵懇の間柄で都政と都議会を牛耳る内田茂・自民党東京都連幹事長(77)の行状が具体的なデータに基づいて暴露されています。東京都議会から組織委員会の理事として送り込まれた高島直樹・前都議会議長と川井重勇(しげお)議長は、2人とも内田都議の側近。都庁出身の組織委役員も内田氏の息がかかった人物。要するに、東京五輪の重要な話はすべて、「都議会のドン」と呼ばれる内田氏のところに集まる仕組みになっている、というのです。

 あまり表には立たず、金と人脈で物事を動かす人物を黒幕とかフィクサーと言います。普通、フィクサーは舞台の裏手に居るものですが、東京都庁と都議会の場合はなんと表舞台に立っていた、というわけです。これも驚くべきことです。東京もまた「一つの村」だったということか。メディアも検察もこうした事情は承知していたのでしょうが、怖くて手が出せなかったのでしょう。都知事選で内田氏ら自民党都連が担いだ増田寛也氏が大敗し、東京都の利権構造はガラガラと音を立てて壊れ始めています。

 週刊文春が報じた内田茂都議の政治資金をめぐる疑惑(事務所の家賃を家族が役員を務める会社に政治資金から支出していた疑い)や、内田氏が役員を務める「東光電気工事」という会社をめぐる疑惑(五輪関連の事業を不思議な経緯で落札した疑い)に徐々に光が当てられようとしています。検察もメディアも、権勢のピークにある人物は怖いが、水に落ちた権力者は怖くない。みんなで叩き始めるでしょう。司直の手がどこまで伸びるのか、注目されるところです。

 それにしても、東京五輪をめぐる招致と準備のプロセスを見ていると、第二次大戦末期にビルマからインドに攻め込んで多くの犠牲者を出した日本陸軍のインパール作戦を思い出します。「おかしい」と思っていても、トップが怖くて口にできない。ズルズルと引きずられているうちに、数万の将兵が屍をさらす結果になりました。その悪名高い作戦を指揮した牟田口廉也(むたぐち・れんや)第15軍司令官は戦後も生き延び、「あれは私のせいではなく、部下の無能のせいだ」と言い続けました。

 このままでは、東京五輪は「現代日本のインパール作戦」になってしまうのではないか。森喜朗・元首相はさしずめ、「平成の牟田口」か。準備が本格化する前に大掃除が必要です。小池百合子・新知事に期待するところ大ですが、週刊文春によれば、小池氏の周りに集まる人たちにも「はてなマーク」の人が多いのだとか。政治の世界は本当に難しい。

≪参考サイト≫
◎東京都オリンピック・パラリンピック準備局の公式サイト
http://www.2020games.metro.tokyo.jp/taikaijyunbi/taikai/2020/index.html
◎同サイトのカヌースラローム会場関係
http://www.2020games.metro.tokyo.jp/taikaijyunbi/taikai/kaijyou/kaijyou_15/index.html
◎東京2020大会開催基本計画
https://tokyo2020.jp/jp/games/plan/data/GFP-JP.pdf
◎カヌースラローム競技場計画の見直しを求める提言(橋爪慶介氏)
http://www.dexte-k.com/image/lobbying/lobbying(proposal_of_the_temporary_stadium).pdf
◎最上川カヌー川下りのイベントと記録
http://www.bunanomori.org/NucleusCMS_3.41Release/index.php?catid=9

≪写真説明とSource≫
◎最上川の急流を下るカヌーイストたち(7月30日、撮影・佐久間淳)
◎2013年5月に福島県二本松市で開かれた「あぶくま大会」のワンシーン
http://www.canoe.or.jp/album/ww2_sla3_japancup.html




 1日目の7月30日(土)は山形県朝日町の雪谷カヌー公園から寒河江市の「ゆーチェリー」まで23キロ、2日目の31日(日)は大石田町の大石田河岸(かし)から尾花沢市の猿羽根(さばね)大橋まで19キロをカヌーで下りました。合計42キロのコースでした。参加者は1日目が26人20艇(2人乗りが6艇)、2日目が16人13艇(同3艇)。計31人が最上川の流れを満喫しました(11人が2日間参加)。

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 1日目は曇時々小雨、一時雷雨の天候。最上川の水量はかなり少なく、朝日町から大江町にかけての五百川(いもがわ)峡谷の急流はともかく、後半はトロ場で参加者はかなり苦労しました。ただ、この日午後に山形市などで局所的な集中豪雨があり、2日目はこの降雨が最上川に流れ込み、豊かな流れになりました。空は晴れ、追い風にも助けられて、大石田からは快調な漕ぎでした。2人乗りの艇が多く、カナディアンカヌーの方も多かったのが第4回の特徴です。

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≪参加者≫ 
31人:山形県内21人、県外10人(宮城3、埼玉2、東京2、青森、福島、長野各1人)
【2日間で42キロを完漕】11人
 菊地大二郎(山形市)、菊地恵里(同)、林和明(東京都足立区)、岸浩(福島市)、崔鍾八(山形県朝日町)、清野由奈(同)、渡辺佳久(埼玉県東松山市)、多田英之輔(山形県山辺町)、伊藤信生(山形県酒田市)、佐竹久(山形県大江町)、小野俊博(同)
【1日目、23キロを完漕】15人
 瀧口宗紀(山形市)、森谷久範(同)、東海林憲夫(山形県寒河江市)、山川治雄(山形市)、調所孝芳(同)、鈴木基之(同)、丹野睦(同)、高田徹(青森県八戸市)、三塚志乃(仙台市太白区)、中沢崇(長野市)、渡辺政幸(山形県大江町)、大類晋(山形県尾花沢市)、徳宮龍男(同)、斉藤栄司(同)、市川秀(東京都中野区)
【2日目、19キロを完漕】5人
 福田泉(さいたま市北区)、池田丈人(山形県酒田市)、鈴木未知哉(宮城県柴田町)、鈴木達哉(同)、佐藤博隆(山形県酒田市)
 *過去の参加者数(2012年 第1回 24人、2014年 第2回 35人、2015年 第3回 30人)

≪陸上サポート≫ 安藤昭雄▽白田金之助▽清野千春▽長岡昇▽長岡典己▽長岡佳子
≪写真、動画撮影≫ 佐久間淳▽村山彩▽長岡昇▽長岡典己▽鈴木達哉
≪昼食のデザート、漬物提供≫斉藤栄司(尾花沢スイカ)▽佐竹恵子(キュウリ漬、ナス漬)

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≪出発、通過、到着時刻≫
▽1日目(7月30日)
 10:00 朝日町・雪谷カヌー公園を出発
 12:10 朝日町・タンの瀬に到着、昼食
     *タンの瀬下りをユーチューブにアップしました(カラー文字をクリック)
 13:10 タンの瀬を出発
 16:40 寒河江市・ゆーチェリーに到着
▽2日目(7月31日)
 9:30 大石田町・大石田河岸を出発
    *出発の様子をユーチューブにアップしました(カラー文字をクリック)
 11:40 尾花沢市・舟戸大橋に到着、昼食
 12:40 舟戸大橋を出発
 13:40 猿羽根大橋に到着

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≪主催≫ NPO「ブナの森」  *NPO法人ではなく任意団体のNPOです
≪主管≫ カヌー探訪実行委員会(ブナの森、山形カヌークラブ、大江カヌー愛好会で構成)
≪後援≫ 国土交通省山形河川国道事務所、国土交通省新庄河川事務所、山形県、東北電力(株)山形支店、朝日町、大江町、西川町、寒河江市、中山町、大石田町、尾花沢市、舟形町、山形県カヌー協会、山形カヌークラブ、大江町カヌー愛好会、美しい山形・最上川フォーラム
≪協力≫ 大石田町東町区長、矢作(やはぎ)善一▽東町公民館長 細矢裕▽東町公民館の皆様 
   *7月30日夕、東町公民館でのビアガーデンに参加させていただきました

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30日夕、大石田町の東町公民館でのビアガーデンに参加させていただきました

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30日昼に続いて、31日のゴール後にも斉藤栄司さんがスイカをふるまってくださいました

≪ウェブサイト制作≫
 コミュニティアイ(成田賢司、成田香里、佐藤大介)
≪ポスター、Tシャツのデザイン・制作≫ 遠藤大輔(ネコノテ・デザインワークス)
≪輸送と保険≫
 マイクロバス・チャーター 朝日観光バス(株)
 旅行保険 あいおいニッセイ同和損保、Bell 保険オフィス
≪横断幕揮毫≫ 成原千枝

≪参照ウェブサイト≫
山形県朝日町の公式サイトの「まちの写真館」 (カラー文字をクリック)

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1日目の参加メンバー(朝日町雪谷カヌー公園)

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2日目の参加メンバー(大石田河岸)